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中小企業庁の事業承継税制完全解説

計算機と帳簿を使って収支を整理する手元

公開: 2026-10-10 / 更新: 2026-10-10 ・ 読了 約5分

この記事の要点

  • 計画認定後も5年間の年次報告と3年ごとの税務署届出を怠ると取消リスクがある
  • 将来のM&A売却時は猶予税額の一括納付が生じるため事前の検討が必要

事業承継税制は、後継者が取得した自社株式に係る贈与税や相続税の納税が猶予・免除される公的制度です。中小企業庁が管轄するこの特例措置を活用すれば、最大100%の納税猶予を受けられ、資金繰りへの負担を大幅に抑えて会社を引き継げます。

親族内承継や従業員承継において、多額の自社株式評価額によって発生する税金は、企業の存続を揺るがす大きな課題です。制度の適用要件や具体的な申請手順、取り消しリスクを把握し、事前の準備を確実に進めることが求められます。

中小企業庁が推進する事業承継税制の全体像

事業承継税制とは自社株の納税を猶予する仕組み

事業承継税制は、経営者が後継者に自社の株式を承継する際、本来発生する贈与税または相続税の納税を一定の要件下で猶予する制度です。現経営者が死亡した場合や、次の世代への再承継が行われた場合など、所定の要件を満たし続けることで、最終的に納税が免除されます。

一般的な相続税申告では、自社株の評価額が高額化すると数千万円から数億円規模のキャッシュアウトが発生することが珍しくありません。この制度を利用することで、手元資金の流出を防ぎ、事業投資や雇用維持に資金を充てることが可能になります。

一般措置と特例措置の違い

事業承継税制には「一般措置」と、時限的に拡充された「特例措置」の2種類が存在します。両者の最大の違いは、対象となる株式数と納税猶予の割合です。

一般措置では、総株式数の3分の2までが上限となり、相続税の納税猶予割合も80%にとどまります。そのため、残りの株式や税額については自己資金等で対応しなければなりません。一方、特例措置では対象株式数の上限が撤廃され全株式が対象となるほか、贈与税・相続税ともに100%が納税猶予されます。また、特例措置では雇用確保要件の弾力化や、事業縮小・解散時の税額免除といったセーフティネットも整備されています。

特例承継計画の提出期限と利用手順

特例措置を利用するための主要な要件

特例措置を適用するためには、会社・後継者・先代経営者のそれぞれが中小企業庁の定める要件を充足する必要があります。会社側の主たる要件としては、中小企業基本法上の中小企業者であること、資産保有型会社や資産運用型会社などの特定企業に該当しないこと、風俗営業を行っていないことなどが挙げられます。

後継者側には、会社の代表権を有していることや、贈与・相続の直前において役員就任期間などの条件が設定されています。また、贈与時に後継者が20歳以上(成年に達していること)などの年齢要件も確認が必要です。詳細な法令解釈や個別判定については、最終的に顧問税理士や専門機関への確認が欠かせません。

認定申請から税務申告までの実務ステップ

特例措置の適用を受ける実務の流れは、段階を踏んで進める必要があります。

第一に、都道府県への「特例承継計画」の提出と認定です。この計画には、認定経営革新等支援機関(商工会議所、金融機関、税理士など)の所見を記載する必要があります。

第二に、株式の贈与または相続の実行です。計画の認定後、実際に株式を後継者へ移転させます。

第三に、都道府県知事に対する「認定申請」を行い、認定書の交付を受けます。贈与の場合は贈与年の10月15日から翌年1月15日まで、相続の場合は相続開始を知った日の翌日から8か月以内に申請を行う必要があります。

第四に、所轄税務署への税務申告です。国税庁へ申告書とともに都道府県の認定書写しなどを提出し、納税猶予の適用を申請します。同時に、猶予される税額および利子税に見合う担保(通常は取得した自社株式)を提供することが求められます。

提出書類と認定支援機関の関与

特例承継計画の作成には、自社の強み・弱み、経営上の課題、承継までの事業計画などを明記しなければなりません。実務上、自社単独での作成は難しく、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けながら進めるケースが一般的です。支援機関への報酬は、依頼先の専門家や業務範囲によって30万円から150万円程度と幅があるため、事前に見積もりを取って進めることが推奨されます。

計算機と封筒を並べた資金計画の机
計算機と封筒を並べた資金計画の机 /イメージ画像

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事業承継税制の活用で注意すべき取り消しリスクと失敗例

5年間の事業継続要件と報告義務の失念

納税猶予が確定した後も、一定の義務が課されます。特に株式取得から最初の5年間は「経営承継期間」と呼ばれ、後継者が代表者を継続していることや、株式を保有し続けていることなどの要件を満たさなければなりません。

この期間中は、毎年、都道府県知事への「年次報告書」および税務署への「継続届出書」の提出が義務付けられています。5年経過後も、3年ごとに税務署への届出が必要です。実務上、この届出を期限内に忘れてしまい、納税猶予が取り消されて猶予税額と利子税の一括納付を求められるケースがあります。手続きの管理体制を税理士任せにせず、社内でも厳密にスケジュール管理を行うことが重要です。

雇用確保要件の未達に関する留意点

特例措置では雇用確保要件が緩和されており、5年間平均で常時使用従業員数が承継時の8割を下回った場合でも、直ちに認定取消とはならず、経営状況が悪化した理由等を記載した報告書を提出すれば猶予を継続できます。しかし、理由書の提出を怠った場合や、虚偽記載があった場合には納税猶予が打ち切られます。業界平均と比較して人員の流出が激しい業種では、雇用の維持状況に細心の注意を払わなければなりません。

M&Aや事業譲渡を行う際の影響

後継者が事業を引き継いだものの、将来的に第三者へのM&Aや事業譲渡を検討する事態が生じることもあります。納税猶予期間中に後継者が株式を第三者へ売却・譲渡した場合、猶予されていた税金を納付する義務が発生します。特例措置には事業転換や解散時の免除規定も一部存在しますが、全額が免除されるとは限りません。将来的にM&Aによる会社売却を選択肢に入れている企業は、事業承継税制の適用が将来の経営判断を縛る要因にならないか、事前に比較検討することが大切です。

遺留分侵害と他の相続人とのトラブル

事業承継税制は税負担を軽減する制度であり、民法上の遺産分割や遺留分の問題を解決するものではありません。自社株の大半を後継者に集中させた結果、他の相続人から遺留分侵害額請求を起こされ、経営権が不安定化するケースがあります。税制の活用と並行して、民法上の特例(除外合意・固定合意)の活用や、遺言書の作成、生命保険を活用した納税原資の確保など、法務・財務の両面から総合的な対策を講じる必要があります。

制度活用の判断基準と今後の進め方

事業承継税制は非常に強力な節税手段である一方、継続届出の手間や事業譲渡時の制約など、長期にわたる制約を伴います。自社株評価額が低く、通常の暦年贈与や相続税の基礎控除の範囲内で十分に引き継げる場合には、あえて本制度を利用しない選択肢も検討に値します。株式評価額や事業展開の方向性、後継者の適性などを多角的に評価し、専門家とともに最適な承継スキームを選択することが成功の鍵となります。

よくある質問

Q. 特例承継計画の提出には費用がどのくらいかかりますか?
A. 都道府県への申請手数料自体は無料ですが、認定経営革新等支援機関である税理士や専門機関へのサポート報酬として30万円から150万円程度が発生するケースが一般的です。
Q. 後継者が複数人いる場合でも事業承継税制は使えますか?
A. 特例措置では、最大3人までの後継者に対して同時に納税猶予を適用することが可能です。ただし、後継者全員が会社の代表権を有していることなどの要件を満たす必要があります。
Q. 納税猶予が完全に免除されるのはどのようなタイミングですか?
A. 先代経営者や後継者が死亡した場合や、次の世代の後継者へ事業承継税制を再適用して株式を贈与・承継した場合などに、猶予されていた税額の納税が免除されます。
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