事業譲渡とは?株式譲渡との違いや手続きの流れを整理
この記事の要点
- 事業譲渡は事業資産を個別に売買する手法で、株式譲渡とは取引主体が異なる
- 売り手は約30〜34%程度の法人税が発生し、買い手は課税資産に消費税を納める
- 従業員の転籍同意や取引先との再契約が必要で、手続きに約6〜12カ月かかる
事業譲渡とは何か?基本の仕組みと株式譲渡との決定的な違い
事業譲渡とは、会社が保有する事業の全部または一部を、第三者の企業へ売買契約に基づいて譲渡するM&A手法です。会社そのものを売買する株式譲渡とは異なり、事業譲渡では対象となる資産、負債、従業員、取引先との契約などを個別に選択して引き継ぐ点が最大の特徴です。
株式譲渡と事業譲渡の相違点
M&Aの実務で最も頻繁に比較されるのが株式譲渡です。両者の決定的な相違点は「取引の主体」と「承継される対象の範囲」にあります。
株式譲渡では、株主が保有する会社の株式を買い手に売却します。株主が変わるだけで会社組織や法人格はそのまま存続し、会社の資産も負債も包括的に新しい株主の傘下へと移ります。株主個人に対価が支払われるため、創業者利益を確定させたいオーナー経営者に多く選ばれる傾向があります。
一方、事業譲渡における取引の主体は「会社(法人)」そのものです。譲渡対価は株主個人ではなく、譲渡元の法人の銀行口座に入金されます。会社の一部の赤字部門や特定の店舗ブランドだけを切り離して売却し、残った優良事業で事業再生を図るといった柔軟な選択ができる点が事業譲渡ならではの強みです。
会社分割との違い
事業部門を切り出して他社に移転させる手法として「会社分割」もあります。会社分割は会社法上の「組織再編行為」にあたり、雇用契約や権利義務が原則として包括的に引き継がれます。
対して事業譲渡は、民法上の個別の「売買契約」の集合体です。自動的に権利義務が移転することはないため、従業員の同意を個別に取得したり、取引先との契約を巻き直したりする実務手続きが必要になります。包括承継である会社分割よりも手続きの手間は増えるものの、予期せぬ簿外債務を引き継ぐリスクを完全に遮断できる安心感があります。
売り手・買い手それぞれのメリットとデメリット
事業譲渡を選択するかどうかは、双方の立場における利点と負担を天秤にかけて判断する必要があります。
売り手側のメリットとデメリット
売り手にとっての最大の利点は、残したい事業や法人格を手元に残しつつ、不採算部門や後継者がいない特定部門のみを売却できる点です。売却によって得た資金は法人に入金されるため、新規事業の立ち上げ資金や既存借入金の返済に充当できます。
反面、大きなデメリットとして挙げられるのが「税金の負担」と「手続きの煩雑さ」です。事業譲渡によって譲渡益が発生した場合、法人税などが課税されます。実効税率は約30%から34%程度となるケースが一般的で、株式譲渡の所得税・住民税(約20.315%)と比べて税負担が重くなる傾向があります。また、譲渡対象となる資産に不動産や機械設備が含まれる場合、消費税の課税対象にもなります。
買い手側のメリットとデメリット
買い手側にとってのメリットは、欲しい事業用資産やノウハウ、顧客基盤だけを厳選して買収できる点です。対象会社が抱えている過去の未払い残業代、係争中のトラブル、偶発債務などの「簿外債務」を遮断し、リスクを最小限に抑えて事業拡大を図れます。
注意すべきデメリットは、個別の契約承継手続きに伴う負荷です。許認可は自動的に引き継がれないため、業種によっては買い手側で新規に免許を取得し直す必要があります。申請から認可取得までに数カ月を要することもあり、引き継ぎスケジュールが長期化しやすい側面を持っています。

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無料で記事を作る →事業譲渡の具体的な進め方と6つのステップ
事業譲渡は、事前の準備から最終的な引き継ぎ完了まで、おおよそ6カ月から1年程度の期間を要します。大まかな流れは以下の6つのステップに分かれます。
ステップ1:譲渡対象の選定と企業価値の試算
最初に、どの事業資産、知的財産、人員、負債を売却対象にするかを明確に切り分けます。対象事業の直近の営業利益や保有資産をもとに、譲渡希望価格の幅を試算します。資産の時価評価に加えて、将来の収益力を反映した「のれん代」をどの程度上乗せできるかを算出します。
ステップ2:買い手候補の探索と秘密保持契約の締結
M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センターなどを活用し、買い手候補を探します。情報漏洩を防ぐため、最初に詳細な社名を伏せた概要書で関心を引き、具体的な検討に入る前に必ず秘密保持契約(NDA)を結びます。
ステップ3:トップ面談と基本合意書の締結
経営者同士が直接面談し、経営理念や事業への想い、買収後の処遇方針などを擦り合わせます。条件面のすり合わせが進んだ段階で、譲渡対象範囲、独占交渉権の有無、譲渡金額の想定レンジを明記した「基本合意書」を取り交わします。
ステップ4:デューデリジェンス(買収監査)の実施
買い手側が公認会計士や弁護士などの専門家を派遣し、売り手企業の財務、法務、労務、事業の精査を行います。事業譲渡では簿外債務の引き継ぎリスクは限定的ですが、譲渡対象資産の実在性や、重要な取引先との契約関係に問題がないかを念入りに確認します。期間はおおむね2週間から1カ月半程度かかります。
ステップ5:事業譲渡契約の締結と株主総会の特別決議
監査結果を踏まえて最終条件を交渉し、事業譲渡契約書を締結します。事業の「全部の譲渡」や、売り手にとって事業資産の20%を超えるような「重要な一部の譲渡」に該当する場合、会社法に則り株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)を経る必要があります。株主総会の招集通知発送や反対株主の買取請求手続きなど、法定のスケジュールに沿って慎重に進めます。
ステップ6:個別同意の取得とクロージング(引渡し)
契約締結後、従業員から転籍の個別同意書を回収し、取引先や賃貸借物件の契約名義変更を進めます。すべての前提条件が整った段階で、譲渡代金の決済と事業資産の引き渡し(クロージング)を行います。
発生する税金と費用の計算実務
事業譲渡を行う際、売り手と買い手の双方に異なる税金が発生します。予期せぬ資金流出を防ぐためにも、税負担の構造を正しく把握しておくことが重要です。税制の詳細や最新の優遇措置については、国税庁の情報を確認しながら税理士などの専門家へ相談してください。
売り手に課される税金
売り手企業には、売却益に対して法人税・地方法人税・住民税・事業税が課されます。
譲渡益の計算式は次の通りです。
譲渡益 = 譲渡対価 - 譲渡した資産および負債の簿価純資産額 - 譲渡にかかった諸経費
この譲渡益が法人の他の損益と通算され、全体の所得に対して約30%〜34%程度の税率が適用されます。過去の繰越欠損金が存在する場合は、譲渡益と相殺して税負担を大幅に軽減できる場合があります。
買い手に課される税金
買い手側には、課税資産の購入に伴う「消費税」が発生します。土地や債権は非課税ですが、機械設備、什器備品、車両、特許権、のれん(営業権)などは課税資産です。対価に含まれる消費税額分を売り手へ上乗せして支払い、自社の消費税申告時に仕入税額控除として処理します。
また、不動産を引き継ぐ場合には不動産取得税(本則4%)や登録免許税が別途課税されます。
事業譲渡でよくある失敗例と防ぐためのポイント
事業譲渡は選択の自由度が高い反面、関係者の利害調整が難航しやすい側面があります。過去の事例から学び、未然に対策を講じる必要があります。中小企業のM&Aに関する各種支援策やガイドラインは、中小企業庁が公開している手引きも参考になります。
失敗例1:キーマンとなる従業員の退職とノウハウの流失
事業譲渡では、従業員の雇用契約が自動的に買い手へ移管されません。一人ひとりに対して丁寧な説明を行い、転籍の同意を得る必要があります。
ある製造業の部品加工部門を売買したケースでは、経営陣だけで交渉を進め、クロージング直前に従業員へ突然転籍を打診しました。待遇面の不安や不信感から熟練の技術者複数名が同意を拒否して退職してしまい、買収後の製造ラインが稼働停止に追い込まれ、譲渡契約の解除を巡る紛争へと発展しました。
対策として、どのタイミングで主要キーマンに開示するかを買い手と事前に綿密に取り決め、給与水準や勤続年数の引き継ぎ条件を書面で提示し、不安を解消する丁寧なプロセスが欠かせません。
失敗例2:主要取引先からの契約継続拒否
販売先や仕入先との基本取引契約も、個別に対象先との合意を得て契約を再締結する必要があります。
特定の卸売先へ売上の約60%を依存していた小売事業の譲渡において、事前の根回しを怠った結果、買い手企業への名義変更時に取引条件の引き下げを要求されたり、契約自体を打ち切られたりするケースがあります。その結果、想定していた売上規模を維持できなくなります。
対策としては、デューデリジェンスの段階で取引先との契約書にある「チェンジオブコントロール条項(経営権変更に伴う解除条項)」や譲渡禁止特約の有無を精査し、譲渡後も関係を維持できるよう売り手と買い手が共同で取引先への挨拶・説明を行う段取りを整えることが肝要です。
失敗例3:競業避止義務の失念によるトラブル
会社法第16条では、事業を譲渡した会社は、当事者間に別段の意思表示がない限り、同一の市区町村および隣接する市区町村の区域内において、20年間にわたり同一の事業を行ってはならない旨が規定されています。
売却後に売り手企業が手元資金で似たような新規ビジネスを立ち上げたところ、買い手から競業避止義務違反として損害賠償請求や差止請求を提訴される事態が生じることがあります。
売却後に予定している自社の事業計画がある場合は、契約書作成時に競業避止義務の対象地域、対象事業の定義、有効期間(3年〜5年程度に短縮するなど)を明確に定め、リスクを排除しておく必要があります。
自社に適した手法を選ぶための判断基準
会社全体を第三者に託したいのか、特定部門のみを切り離して会社の再構築を目指したいのかによって、選ぶべきM&A手法は大きく異なります。
会社全体を売却し、許認可や従業員契約をそのまま一括で引き継ぎたい場合、手続きの簡便さや税務面での手残り資金を考慮すると株式譲渡が第一候補となります。後継者不在による事業承継の現場では、株式譲渡の採用率が全体の7割から8割程度を占めています。
一方で、「赤字事業だけを切り離して本業の黒字事業に経営資源を集中させたい」「特定の技術や拠点だけを大手に引き受けてもらいたい」「簿外債務の疑いがあるため買い手が株式取得を嫌がっている」という状況であれば、事業譲渡が極めて有効な解決策となります。
事業譲渡の実務は、資産の洗い出しから法的な契約書の作成、税務シミュレーションまで多岐にわたる専門知識が求められます。検討を始める段階から、M&A専門の仲介機関、弁護士、税理士などの専門家を交え、自社の状況に即した進め方を綿密に協議することをおすすめします。
よくある質問
- Q. 事業譲渡を行うと、従業員の雇用はどうなりますか?
- A. 事業譲渡では雇用契約が自動的に引き継がれません。買い手企業へ移籍させるためには、従業員一人ひとりから個別に「転籍同意書」を取得する必要があります。給与水準や退職金、有給休暇の引き継ぎ条件を丁寧に説明し、同意を得るプロセスが必須です。
- Q. 事業譲渡で得た売却代金は、経営者個人が受け取れますか?
- A. いいえ、受け取れません。事業譲渡の契約当事者は会社(法人)であるため、売却代金は売り手企業の法人口座へ入金されます。経営者個人が資金を受け取るには、役員退職金の支給や配当、会社解散による残余財産の分配といった手続きを経る必要があります。
- Q. 事業譲渡に必要な期間はどのくらいですか?
- A. 準備開始から引き渡し(クロージング)まで、おおよそ6カ月から1年程度かかるのが一般的です。買い手探しに2〜4カ月、デューデリジェンスや契約交渉に2〜3カ月、株主総会決議や許認可の再取得、個別同意の回収に1〜3カ月程度を要します。
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