
会社売却の相場と売上・利益の関係!算出法と高く売るコツ
この記事の要点
- 会社売却の相場は「時価純資産+営業利益の2〜5年分」が実務上の目安となる。
- 売上高の規模そのものよりも、実質的な営業利益やキャッシュフローが重視される。
- 高く売るためには属人性の排除と、事前の財務・労務の磨き上げが不可欠である。
会社売却における譲渡価格の相場は、一般的に「時価純資産+営業利益の2年〜5年分」が実務上の目安となります。売上高の規模そのものよりも、そこから生み出される「営業利益」や「キャッシュフロー」の額が売却額に直接影響します。
「自社がいくらで売れるのか」という疑問に対し、売上や利益をベースにした具体的な算出方法を理解することは、納得のいくM&Aを実現するための第一歩です。この記事を読むことで、自社の客観的な価値を算定し、買い手との価格交渉を有利に進める具体的なノウハウが身につきます。
会社売却の相場と「売上高」の基本的な関係
会社売却を検討する際、「売上高の何倍で売れるのか」と考える経営者は少なくありません。しかし、M&Aの査定において売上高は「事業の規模」を示す指標であり、売却額の相場に直接比例するわけではありません。
売上高ではなく「利益」が重視される理由
買い手が最も注目するのは、買収後にどれだけのキャッシュ(利益)を回収できるかという点です。仮に売上高が10億円あっても、経費がかさみ赤字経営であれば、買い手にとって買収リスクが高くなります。
逆に、売上高が1億円と小さくても、営業利益率が30%を超えて毎年安定したキャッシュを生み出している会社は、高く評価されやすい傾向にあります。そのため、売却価格の相場は売上高そのものよりも、営業利益や実質的な収益力を基準に算出されます。
業種による売上高と相場の相関性の違い
ITスタートアップやサブスクリプション型ビジネスなど、将来の急成長が見込める特定の業種では、売上高やユーザー数を基準にバリュエーション(企業価値評価)を行うケースがあります。これは「PSR(株価売上高倍率)」などの指標を用いる手法です。
一方で、製造業や建設業、飲食業などの伝統的なビジネスモデルでは、保有する設備や店舗などの「純資産」と、毎年の「営業利益」をベースに評価することが一般的です。
会社売却額の相場を算出する3つの評価手法
M&Aの実務において、会社の価値を評価する手法は大きく分けて3つあります。それぞれの特徴と、どのような企業に向いているかを解説します。
1. コスト・アプローチ(修正純資産法)
コスト・アプローチは、会社の「純資産」に着目して価値を算出する方法です。中小企業のM&Aで最も頻繁に使われるのが「時価純資産価額法(修正純資産法)」です。
これは、貸借対照表上の資産と負債を現在の時価で評価し直して差し引き、実質的な純資産を算出する手法です。帳簿上の数値だけでなく、不動産の含み益や、回収不能な売掛金の除外などを反映するため、客観的な資産価値を把握できます。
2. インカム・アプローチ(DCF法)
インカム・アプローチは、会社が将来生み出すと予測される「将来キャッシュフロー」に着目し、それを現在の価値に割り引いて算出する方法です。代表的な手法として「DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法」があります。
将来の事業計画書に基づいて計算するため、成長性の高いIT企業や、独自の特許技術を持つ企業の評価に適しています。ただし、作成する事業計画の客観性や、割引率の設定によって算出額が大きく変動する特徴があります。
3. マーケット・アプローチ(類似会社比較法)
マーケット・アプローチは、売却対象となる企業と類似する上場企業の株価や財務指標を参考に、価値を算出する方法です。「マルチプル法(類似会社比較法)」などがこれに該当します。
市場のトレンドや同業他社の評価がリアルタイムに反映されるため、客観的な納得感を得やすいメリットがあります。ただし、完全に類似する上場企業が存在しない中小企業の場合、適用が難しいケースもあります。
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無料で記事を作る →中小企業M&Aで使われる簡易算出法「年倍法」の計算手順
中小企業の会社売却において、最も実務で多用されるのが「年倍法(ねんばいほう)」と呼ばれる簡易的な算出方法です。これはコスト・アプローチとインカム・アプローチの考え方を組み合わせた手法です。
年倍法の基本計算式
年倍法では、以下の計算式を用いて企業価値の相場(譲渡価格)を算出します。
- 譲渡価格 = 時価純資産 + (営業利益 × 2年〜5年分)
ここで加算される「営業利益の2年〜5年分」は「のれん(営業権)」と呼ばれ、会社の目に見えない強み(技術力、顧客基盤、ブランドなど)を金銭的に評価したものです。この「2年〜5年」という年数には幅があり、業種の将来性や参入障壁の高さによって変動します。
営業利益の「実質化(修正)」がポイント
年倍法で用いる営業利益は、決算書上の数値をそのまま使うのではなく、オーナー経営者特有の経費を調整した「実質営業利益」を使用します。例えば、以下のような項目を調整します。
- 役員報酬の適正化:役員報酬が相場より著しく高い場合、適正額との差額を利益に足し戻します。
- 社用車や交際費の精査:事業運営に直接関係のないプライベート寄りの経費を利益に足し戻します。
- 一時的な損益の除外:その年だけの特別な損失(災害による損失など)や利益を除外します。
この実質営業利益が黒字であれば、売上高が数千万円規模の会社であっても、十分な売却価格がつく可能性があります。
業種別に見る会社売却の相場傾向
会社の売却相場や評価基準は、属する業界の構造によって異なります。ここでは代表的な4つの業界における相場の特徴を紹介します。
IT・ソフトウェア業界
IT業界は、エンジニア人材の確保や、既存顧客からのストック収入(サブスクリプション)を目的とした買収が活発です。そのため、のれん代(営業利益に乗じる年数)が「3年〜7年分」程度と、他業界に比べて高く評価されるケースがあります。売上高の成長率や、解約率(チャーンレート)の低さが価格交渉の重要な材料になります。
建設・工事業界
建設業界では、有資格者の在籍状況や、自治体の入札資格(経営事項審査の評点)が評価の重要ポイントです。また、保有する重機や資材置き場の土地など、目に見える資産が多いため、時価純資産をベースにした堅実な査定が行われる傾向にあります。のれん代はおおよそ「2年〜4年分」の範囲で推移します。
製造業界
製造業は、独自の技術力や特許、生産設備、安定した取引先(サプライチェーン)が評価対象です。設備の老朽化が進んでいる場合は、買収後に買い手側で追加の設備投資が必要となるため、その分が査定額から差し引かれることがあります。のれん代は「2年〜5年分」程度が相場となります。
飲食・サービス業界
飲食業や小売業などは、店舗の立地やブランド認知度、マニュアル化された運営体制が評価されます。トレンドの移り変わりが早いため、のれん代は「1年〜3年分」程度と、比較的短めに設定されるケースが目立ちます。店舗の保証金やリース債務の取り扱いも価格に影響します。
会社売却で相場以上に高く売るための3つのコツ
自社の売却価格を少しでも高め、手取り額を増やすためには、事前の準備と交渉戦略が不可欠です。
1. 属人性を排除し、組織で回る体制を作る
「社長がいなければ回らない会社」は、買い手にとって買収後の事業継続リスクが非常に高いため、売却価格が下がりやすくなります。経営陣や従業員への権限委譲を進め、業務マニュアルを整備するなど、オーナー経営者が引退しても事業が自律的に継続できる仕組みを整えておくことが重要です。
2. 財務・税務の「磨き上げ(磨き上げ)」を行う
売却活動を始める前に、決算書を「買い手に見せられる状態」に整理します。不要な資産(稼働していない遊休土地や、個人的な趣味の社用車など)を処分し、貸借対照表をスリム化しておきます。また、税務リスクを軽減するために、国税庁のガイドラインに準拠した適正な税務処理を徹底しておくことも大切です。
3. シナジー効果(相乗効果)が見込める買い手を探す
自社単体での価値だけでなく、「買い手企業と合流することで、どのようなメリットが生まれるか」をアピールします。例えば、買い手企業が持っていないエリアの顧客基盤を提供できる、買い手の製品を自社の販路で販売できる、といったシナジー効果を具体的に提示できれば、相場以上の価格提示を引き出せる可能性が高まります。
会社売却における失敗例と回避策
会社売却の手続きを進める中で、事前の準備不足や認識の甘さからトラブルに発展するケースがあります。
簿外債務や未払い残業代の放置による減額
売却の最終局面で行われる「デューデリジェンス(買収監査)」において、決算書に載っていない債務(簿外債務)や、従業員への未払い残業代、退職金の引き当て不足などが発覚するケースがあります。これらが発覚すると、発覚した額がそのまま譲渡価格から直接減額されるか、最悪の場合は破談に至ります。事前に自社で労務環境の自主点検を行い、問題を解消しておくことが不可欠です。
情報漏洩による従業員の離職や取引停止
M&Aの交渉を行っている事実が、正式契約前に社外や従業員に漏洩してしまうケースです。「会社が売りに出されている」という噂が広まると、従業員の不安を煽り退職者が続出したり、主要な取引先から契約を打ち切られたりするリスクがあります。これにより企業価値が急落し、売却自体が不可能になることもあります。交渉の初期段階で必ず秘密保持契約(NDA)を締結し、情報の管理体制を徹底してください。
まとめ:適切な売却相場の把握は専門家への相談から
会社の売却相場は、売上高だけでなく、時価純資産や実質的な営業利益、そして企業の持つ無形の強みを総合的に評価して算出されます。自社の正確な価値を知るためには、税務や法務の専門知識を持ったM&A仲介会社や専門家に相談することが推奨されます。個別の税務判断や法的な手続きについては、必ず税理士や弁護士などの専門家に相談の上、最終的な判断を行ってください。
中小企業の資金調達や事業承継に関する公的な支援情報については、日本政策金融公庫や中小企業庁の公式サイトも参考にすると良いでしょう。早期から準備を進め、確実な事業承継を目指しましょう。
よくある質問
- Q. 売上高が小さくても会社は売却できますか?
- A. はい、売却可能です。売上高の規模が小さくても、安定した利益が出ている、独自の技術やノウハウがある、特定の顧客基盤を保有しているといった強みがあれば、買い手が見つかる可能性は十分にあります。
- Q. 会社売却にかかる期間はどのくらいですか?
- A. 一般的には、売却の準備を開始してから最終的な成約にいたるまで、およそ6ヶ月から1年程度の期間がかかります。買い手探しやデューデリジェンス(買収監査)の進行状況によって前後します。
- Q. 赤字経営の会社でも売却することは可能ですか?
- A. 可能です。純資産が豊富にある場合や、買い手企業とのシナジー効果によって黒字化が見込める場合、また優秀な人材や特許技術を保有している場合などは、赤字であっても売却できるケースがあります。



