事業承継と役員借入金の処理方法|放置リスクと解消手順
この記事の要点
- 役員借入金は相続財産扱いとなり放置すると後継者の税負担が増える可能性がある
- 債務免除・DES・分割返済の3方法で整理でき財務影響はそれぞれ異なる
- M&A時は役員借入金の整理が遅れると価格交渉が数か月遅延することがある
事業承継における役員借入金はどう処理すべきか
事業承継で役員借入金が残っている場合、放置せず「債務免除」「DES(デット・エクイティ・スワップ)」「相続財産としての承継」のいずれかで整理する必要がある。なぜなら、役員借入金は経営者個人の相続財産として扱われるため、何も対策をしないまま相続が発生すると、後継者に想定外の相続税負担や会社の資金繰り悪化が及ぶ可能性があるからだ。
役員借入金とは、会社の資金繰りが厳しい時期などに経営者個人が会社へ貸し付けたお金のことで、会社の決算書上は「役員借入金」「代表者借入金」といった科目で負債に計上される。中小企業では金融機関からの借入が難しい場合に経営者が私財を投入するケースが珍しくなく、結果として長年にわたり残高が積み上がっていることがある。
なぜ役員借入金が事業承継の障害になるのか
役員借入金が事業承継の障害になりやすい理由は、主に次の3点に整理できる。
- 経営者の相続発生時、役員借入金は「貸付金」として経営者個人の相続財産に算入され、相続税の課税対象になる
- 後継者が株式と合わせて会社を引き継ぐ際、会社に返済能力がなければ借入金が「不良債権化した個人資産」として残り続ける
- M&Aで会社を売却する場合、買い手が役員借入金の存在を嫌気し、譲渡価格の減額交渉やスキームの見直しを求めてくることがある
特に相続税の観点では、会社の業績が悪化していて実質的に返済が見込めない状態であっても、帳簿上の貸付金額がそのまま相続財産として評価されるのが原則とされている。このため、経営者の個人資産としては「回収困難なのに課税だけはされる」という状態に陥りやすい。
役員借入金を放置した場合に起こりうる失敗例
役員借入金の整理を先送りにしたまま事業承継を迎えると、次のような事態につながることがある。
まず、相続発生後に相続人が役員借入金の存在を正確に把握しておらず、相続税の申告漏れを指摘されるケースがある。経営者本人しか詳細を把握していない帳簿外のやり取りが含まれている場合、後継者や税理士が実態を確認するだけでも時間がかかる。
また、M&Aによる会社売却を検討した段階になって、役員借入金が数千万円単位で残っていることが判明し、買い手側から「清算してから改めて交渉したい」と言われ、スケジュールが数か月単位で後ろ倒しになるケースもある。役員借入金の金額が大きいほど、買い手にとっては実質的な負債として評価されるため、売却価格や契約条件に直接影響しやすい。
さらに、債務免除によって整理しようとした結果、会社側に「債務免除益」が発生し、繰越欠損金で相殺しきれず想定外の法人税負担が生じたという失敗例も見られる。免除額が大きい場合、免除した年度の利益が一気に膨らみ、税負担が重くなる可能性がある点には注意が必要とされている。

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無料で記事を作る →役員借入金を解消する主な方法と特徴
役員借入金の整理方法は会社の財務状況や承継の形態によって選択肢が異なる。代表的な方法は次の3つとされている。
- 債務免除:経営者が会社に対する貸付金を放棄する方法。会社の負債は減るが、免除益が法人税の課税対象になる可能性がある
- DES(デット・エクイティ・スワップ):役員借入金を資本金(出資)に振り替える方法。負債が資本に変わるため財務体質は改善するが、株式の持分比率が変動し、相続税評価額にも影響することがある
- 分割返済・計画的な返済:会社の資金繰りに余裕がある場合、数年かけて計画的に返済していく方法。手続きは比較的シンプルだが、完済までに時間がかかる
どの方法が適しているかは、会社の繰越欠損金の有無、株価評価への影響、後継者の資金負担など複数の要素を踏まえて判断する必要がある。特に自社株評価は役員借入金の処理方法によって数百万円単位で変動することもあるため、税理士など専門家に事前相談のうえで進めることが望ましいとされている。
整理にかかる期間とタイミングの考え方
役員借入金の整理は、事業承継の準備段階から逆算して着手するのが望ましいとされている。一般的に、生前贈与や相続時精算課税制度の活用を視野に入れる場合、数年単位での計画が必要になることが多い。M&Aを予定している場合は、デューデリジェンス(買収監査)が始まる前、遅くとも交渉の初期段階までに整理方針を固めておくと、後の価格交渉がスムーズに進みやすい。
実務上は、決算期をまたいで数回に分けて処理するケースや、事業承継税制の適用検討と並行して進めるケースもあり、個別の事情によって所要期間には幅がある。早いケースでは半年程度で整理が完了する一方、株価評価や税務上の調整が絡む場合は1年以上かかることも珍しくない。
事業承継税制・相続税評価との関係を確認する
役員借入金は、事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度)の適用可否そのものには直接影響しないが、自社株の評価額を通じて間接的に影響することがある。役員借入金が多額に残っていると、純資産価額方式による株価評価の計算要素に影響し、結果として納税猶予の対象となる税額にも変動が生じうる。
相続税における貸付金の評価方法については、原則として元本価額で評価するとされているが、回収不能と認められる部分については評価額を減額できる場合もある。この判断は個別の財務状況によって異なるため、具体的な取り扱いは国税庁の公表情報や所轄の税務署、税理士への確認が必要になる。
また、事業承継全般の相談先としては、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口も活用できる。制度の概要や相談窓口の情報は中小企業庁のウェブサイトで確認できる。
まとめ:早めの着手が後継者の負担を減らす
役員借入金は、放置すればするほど相続税評価や事業承継税制の適用、M&A時の企業価値評価に影響が広がりやすい性質を持つ。債務免除、DES、計画的な返済など複数の選択肢があるが、いずれも会社の財務状況や株価評価への影響を踏まえた判断が必要になる。事業承継やM&Aを具体的に検討し始めた段階で、早めに税理士や公的な相談窓口へ確認することが、後継者の負担を軽減する近道になるとされている。
よくある質問
- Q. 役員借入金はそのまま相続しても問題ないですか。
- A. 役員借入金は経営者個人の貸付金として相続財産に算入され、相続税の課税対象になります。回収不能な場合でも原則は元本価額で評価されるため、放置すると後継者の税負担が増える可能性があり、事前整理が望ましいとされています。
- Q. 債務免除をするとどんな税負担が発生しますか。
- A. 会社側に債務免除益が発生し、法人税の課税対象になります。繰越欠損金で相殺できない場合は、免除した年度に想定以上の税負担が生じることがあるため、免除額とタイミングの事前検討が必要です。
- Q. DESとはどのような方法ですか。
- A. 役員借入金を会社への出資に振り替え、負債を資本に変える方法です。財務体質は改善しますが、株式の持分比率や相続税評価額に影響するため、専門家を交えた検討が推奨されます。
- Q. M&Aを検討している場合、役員借入金はいつまでに整理すべきですか。
- A. デューデリジェンスが始まる前、遅くとも交渉の初期段階までに整理方針を固めておくとスムーズです。整理が遅れると買い手との価格交渉や契約条件に影響することがあります。
- Q. 役員借入金の整理はどこに相談できますか。
- A. 税理士のほか、各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的窓口で相談できます。制度の概要は中小企業庁のウェブサイトで確認できます。



