事業承継アンケート調査の実態と準備手順
この記事の要点
- アンケート調査における後継者不在率は約50%〜60%で高止まりしている
- 承継完了までの準備期間はおおよそ3年〜10年を見込む必要がある
事業承継に関する公的機関のアンケート調査では、経営者の約5割から6割が後継者未定と回答しており、準備不足による廃業リスクが浮き彫りになっています。事業承継を円滑に進めるには、アンケートから判明している平均的な準備期間(おおよそ3年から10年)を把握し、早期に資産・経営権の整理計画を立てることが不可欠です。
事業承継は、経営者自身が元気なうちに着手しなければ選択肢が急速に狭まります。各種調査データの実態を把握し、自社がどのような手順で承継を進めるべきかを理解しておきましょう。
公的機関の事業承継アンケートが示す現状と統計データ
事業承継の実態を把握するうえで、行政や公的支援機関が実施したアンケート調査は客観的な判断材料となります。官公庁の公表データからは、中小企業が直面している後継者問題の深刻さが確認できます。
後継者不在率は約50%〜60%で推移
中小企業庁などの調査によると、中小企業における後継者不在率は約55%〜65%の高水準で推移しています。帝国データバンクの全国後継者不在率動向調査(2023年〜2024年発表分)では不在率がおおよそ53.9%と報告される一方、日本政策金融公庫の調査では廃業予定企業の約50%が「最初から後継者を探していない・見つからない」と回答するなど、複数の調査で約半数以上の企業が後継者を確保できていない実態が示されています。
事業承継問題を抱える経営者が初心者が最初に読むべき情報として、まず「後継者がいない状態は自社だけの特殊な問題ではなく、半数以上の企業に共通する課題である」という共通認識を持つことが重要です。
経営者の引退年齢と事業承継の準備期間
経営者の平均引退年齢は、多くの統計でおおよそ68歳から70歳前後とされています。しかし、実際に事業承継に向けた具体的な準備を始めた時期を尋ねるアンケートでは、「60代後半になってから着手した」という回答が全体の約4割を占めるケースが目立ちます。
事業承継計画の策定から代表権の委譲完了までには、親族内承継で約3年〜5年、役員・従業員承継や第三者承継(M&A)では約5年〜10年かかることが一般的です。準備期間が3年未満しかない場合、株式の分散対策や税金対策が十分に間に合わず、承継コストが跳ね上がる要因となります。
承継形態ごとの割合と変化の傾向
過去の事業承継アンケートでは「子どもへの親族内承継」が8割以上を占めていましたが、近年の調査では承継形態の多様化が進んでいます。
親族内承継の減少と社内承継・M&Aの増加
各種アンケートにおける事業承継形態の内訳は、おおよそ以下の範囲に分散しています。
- 親族内承継:約30%〜40%(過去の調査に比べ大幅に減少傾向)
- 役員・従業員承継(社内承継):約30%〜35%
- 第三者承継(M&Aなど):約15%〜25%
- 廃業・未定:約10%〜15%
経営者の子どもがすでに別企業でキャリアを築いていることや、個人保証(経営者保証)を引き継がせたくないという心理的背景から、親族外承継を選択肢に入れる企業が急増しています。
承継に伴う資産移動の金額規模
事業承継にかかる資金(自社株式の買い取りや相続税・贈与税の納付、退職金の準備など)について、中小企業のアンケート回答では金額に大きな幅が見られます。株式評価額や純資産額によって異なるものの、承継資金の総額は中央値でおおよそ1,500万円〜3,000万円程度、規模の大きい企業を含む平均値では5,000万円〜1億円を超えるケースもあります。平均値は一部の大規模法人の数字に引っ張られる傾向があるため、自社と同規模の純資産・経常利益水準における中央値を参考に資金手当てを考える必要があります。

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無料で記事を作る →アンケート回答から見えてくる事業承継の失敗例
アンケートや相談事例の分析からは、着手の遅れや関係者間の合意形成不足による典型的な失敗パターンが確認できます。
後継者への打診が遅れ承継を拒否されたケース
経営者が「いずれ長男が継ぐだろう」と一方的に思い込み、60代後半になって初めて正式に打診したところ、後継者候補から拒否されるケースがあります。候補者側はすでに他社で役職に就いていたり持ち家を購入していたりして生活基盤が固まっており、突然の事業承継要請に応じられないというトラブルです。事前の対話不足により、候補者の選定を一からやり直さざるを得なくなり、最終的に廃業に追い込まれる事態も発生しています。
株式の分散による経営権の不安定化
親族内承継において、現経営者が遺言書を作成しないまま急逝し、法定相続分に従って複数の親族へ自社株式が分散してしまったケースがあります。後継者の持ち株比率が3分の2(特別決議の要件)を下回ると、定款変更や組織再編を単独で決議できなくなります。株式集約のために多額の買い取り資金が必要となり、会社の運転資金を圧迫する結果につながる失敗例も散見されます。
経営者保証の引き継ぎで交渉が決裂したケース
金融機関からの借入金に対する個人保証(経営者保証)の扱いで承継が頓挫するケースもあります。従業員から後継者を登用しようとした際、金融機関から「後継者も連帯保証人になること」を条件とされ、多額の債務リスクを恐れた候補者が就任を辞退する事例です。日本政策金融公庫をはじめとする公的機関やガイドラインによる経営者保証解除の枠組みを活用しきれず、承継計画が停止してしまう要因となっています。
事業承継を進めるための5つのステップ
アンケート調査で浮き彫りになった課題を回避するためには、体系的な手順で準備を進めることが有効です。
ステップ1:現状把握と企業価値の試算
最初に行うべきは、会社の財務状況、収益力、知的財産や強みの棚卸しです。また、自社株式の概算評価を行い、現時点で承継した場合にどれほどの税負担や株式買取資金が発生するかを算出します。この段階で借入金の状況や個人保証の有無、担保提供資産の範囲も明確にします。
ステップ2:承継形態の選択と後継者候補の特定
親族内承継、従業員承継、M&A(第三者承継)のいずれが自社に適しているかを検討します。候補者がいる場合は、本人の意思確認を早期に行い、経営権を引き受ける意志があるかを確認します。親族や社内に適任者がいない場合は、M&A仲介会社や公的支援機関(事業承継・引継ぎ支援センターなど)への相談を視野に入れます。
ステップ3:事業承継計画書の作成
承継完了までの目標時期を定め、具体的なロードマップを「事業承継計画書」として文書化します。5年から10年程度のスパンで、役員就任時期、株式の移動時期、現経営者の退任時期をスケジュールに落とし込みます。
ステップ4:後継者の育成と社内外の合意形成
後継者を各事業部門で勤務させて実務経験を積ませるとともに、取引先や金融機関への挨拶回りを同伴して人脈を引き継ぎます。また、他の役員や従業員、後継者以外の推定相続人に対しても承継方針を説明し、将来的な遺産分割トラブルを予防します。
ステップ5:株式・経営権の移転と経営者保証の解除
贈与や売買により、計画的に自社株式を後継者へ移転します。事業承継税制の特例措置を活用する場合は、都道府県への計画書提出や税務署への申告が必要です。並行して金融機関と協議し、経営者保証の引き継ぎ不要化または解除に向けた手続きを完了させます。
専門家への相談と公的支援の活用
事業承継は税務、法務、金融が複雑に絡み合うため、独力で完結させることは困難です。税理士、弁護士、公認会計士、M&Aアドバイザーなどの専門家や、各都道府県に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」などの公的相談窓口を活用し、自社に最適なスキームを設計することが成功への近道となります。
よくある質問
- Q. 事業承継の準備は何歳から始めるのが一般的ですか?
- A. 経営者が60歳を迎えた前後から着手するのが一般的です。株式集約や後継者教育にはおおよそ5年〜10年の歳月を要するため、平均引退年齢(おおよそ68歳〜70歳)から逆算して早期に計画を立てる必要があります。
- Q. 後継者がいない場合、アンケートではどのような選択肢が選ばれていますか?
- A. 親族内承継が困難な場合、従業員・役員への承継(約30%〜35%)や、第三者へのM&A(約15%〜25%)を選択する企業が増加しています。選択肢が定まらないまま放置すると廃業に至るケースもあります。
- Q. 事業承継にかかる費用はどの程度ですか?
- A. 会社の資産規模や株式評価額によって大きく異なりますが、中央値でおおよそ1,500万円〜3,000万円程度、平均値では5,000万円を超えるケースもあります。自社株式の買取資金、相続・贈与税、退職金準備などが主な内訳です。
