事業承継の役員退職金、金額と手順を2026年版で解説
この記事の要点
- 役員退職金は最終報酬月額×在任年数×功績倍率(1.5〜3倍程度)で算定するのが一般的
- 分掌変更後も実質的に経営関与が続くと退職の事実が否認されるリスクがある
- M&Aでは株式譲渡対価と退職金の配分で税負担が変わる場合があり専門家への相談が必要
事業承継における役員退職金は、後継者への自社株評価を引き下げつつ先代経営者に資金を残すための代表的な手法です。金額は「功績倍率法」で算定されることが多く、最終報酬月額×在任年数×功績倍率(一般に1.5〜3倍程度)で計算されるケースが一般的です。
役員退職金が事業承継で使われる理由
退職金支給は株価対策と資金確保を同時に進められる数少ない手法です。
事業承継の実務では、先代経営者が引退するタイミングで役員退職金を支給し、会社の利益を圧縮することで自社株の評価額を下げる方法がよく使われます。評価額が下がった状態で株式を後継者に贈与・譲渡できれば、贈与税や譲渡時の負担を抑えやすくなるためです。
あわせて、先代経営者自身の老後資金やM&A後の生活資金を確保できる点も大きなメリットです。会社を売却する場合でも、売却対価の一部を退職金として受け取ることで、譲渡所得よりも税負担が軽くなるケースがあります。ただし税務上の取り扱いは個別の状況により異なるため、最終的な判断は税理士など専門家への確認が必要です。
役員退職金の相場はどう決まるか
功績倍率法が最も一般的で、役職によって倍率の目安が変わります。
代表的な計算式は以下のとおりです。
退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
功績倍率は役職によっておおよそ次のような水準で語られることが多いです。
- 代表取締役:2.5〜3.0程度
- 専務・常務クラス:2.0〜2.5程度
- 平取締役・監査役:1.0〜2.0程度
これはあくまで実務上よく参照される水準であり、法令で定められた数値ではありません。在任年数が30年を超えるような創業社長の場合、最終報酬月額100万円×在任年数30年×功績倍率3.0で、退職金額が9,000万円を超える試算になることもあります。一方で報酬月額が低く抑えられてきた中小企業では、同じ在任年数でも数千万円台にとどまるケースもあり、金額の幅は会社ごとに大きく異なります。

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無料で記事を作る →支給手続きの流れ
退職金の支給には株主総会決議などの社内手続きが欠かせません。
一般的な流れは次のとおりです。
- 役員退職慰労金規程の確認・整備(規程がない場合は新設)
- 取締役会での退職金額の原案作成
- 株主総会での決議(具体的金額、または算定方法の決議)
- 退職の事実確認(代表権の喪失、常勤から非常勤への変更など)
- 退職金の支給と会計処理
特に重要なのは、株主総会で「退職の事実」が実質的に認められるかどうかです。形式上は退任していても、実際には経営の重要な意思決定に関与し続けている場合、税務上「分掌変更による退職金」として損金算入が否認されるリスクがあります。分掌変更後は、報酬が大幅に減少し、経営の第一線から退いたことが客観的に分かる状態にしておく必要があります。
失敗しやすいポイント
退職金の金額設定や手続きの不備が後々のトラブルにつながることがあります。
以下のようなケースが典型的な失敗例として挙げられます。
- 功績倍率を高く設定しすぎて、不相当に高額と判断され損金算入の一部が否認される
- 分掌変更後も実質的に代表者としての業務を続けてしまい、退職の事実が認められない
- 株主総会の議事録を整備しておらず、支給の正当性を証明できない
- 資金繰りを考えずに多額の退職金を一括支給し、事業承継後の運転資金が不足する
- M&Aでの株式譲渡対価と退職金の配分バランスを検討せず、結果的に税負担が増える
特に資金繰りの問題は見落とされがちです。退職金の原資を生命保険の解約返戻金で準備しているケースもありますが、解約のタイミングによっては想定より返戻金が少なく、不足分を借入で補うことになる場合もあります。事業承継を計画する段階から、退職金の原資をどう準備するかをあわせて検討しておくことが望ましいといえます。
M&Aにおける役員退職金の扱い
株式譲渡と役員退職金を組み合わせるスキームは珍しくありません。
会社を第三者に売却するM&Aでは、譲渡対価の全額を株式譲渡益として受け取るのではなく、一部を役員退職金として設計するスキームが用いられることがあります。譲渡所得は原則として一律の税率が適用されるのに対し、退職金は退職所得控除があるため、組み合わせ方によっては手取り額に差が生じる可能性があります。
もっとも、買い手側との交渉や会社の利益水準によって成立しない場合もあり、どのスキームが有利かは会社の財務状況や売り手の意向によって変わります。M&A仲介会社や税理士と相談しながら、株式譲渡対価と退職金のバランスを検討する流れが一般的です。
専門家への相談が必要な理由
功績倍率の妥当性や分掌変更の実態判断は、個別の事情に大きく左右されます。
役員退職金の金額設定や支給手続きは、会社の規模、業種、役員の在任年数や功績によって適正水準が異なり、画一的な基準では判断できません。また、税務調査で不相当に高額と指摘された場合、損金算入が否認され追徴課税が発生するリスクもあります。事業承継を検討する段階で、税理士や公認会計士、M&A仲介会社などの専門家に相談し、会社の実情に即した退職金規程の整備と支給計画を立てることが重要です。
制度の詳細や最新の取り扱いについては、国税庁の公表資料もあわせて確認しておくと安心です。中小企業の事業承継全般については中小企業庁が承継支援に関する情報を公開しており、こちらも参考になります。
よくある質問
- Q. 役員退職金の功績倍率に法律上の決まりはありますか?
- A. 法令で定められた数値ではなく、過去の裁判例や実務慣行から代表取締役で2.5〜3.0程度とされることが多い水準です。会社の実情に応じて税理士と相談しながら設定する必要があります。
- Q. 退職金を支給すると必ず株価が下がりますか?
- A. 退職金の支給で利益が圧縮されれば株価評価が下がる傾向はありますが、会社の資産構成や評価方式によって影響度は異なります。必ず下がると断定はできないため、専門家による試算が推奨されます。
- Q. 分掌変更による退職金とは何ですか?
- A. 代表取締役が非常勤や監査役など経営の第一線から退く立場に変わる際に支給する退職金です。実質的に経営に関与し続けていると判断されると、損金算入が認められない場合があります。



