事業承継の株価の決め方|算定方法と相場を解説
この記事の要点
- 相続税評価額とM&A時価は算定方式が異なり同じ会社でも金額が大きく変わる
- 年買法では純資産に営業利益の3〜5年分程度を加算する例があるが業種で変動する
- 株価対策は役員退職金や持株会社化など複数手法があり実行時期の判断が重要
事業承継における株価は「誰が・何のために」で算定方法が変わる
事業承継の株価には1つの正解があるわけではなく、相続税の申告で使う「相続税評価額」と、第三者への売却で使う「時価(M&A価格)」の2種類が存在し、計算方法がまったく異なります。親族内承継では主に国税庁の財産評価基本通達に基づく方式、第三者承継では収益力や将来性を反映したM&A特有の算定方式が使われます。
非上場企業の株価は、上場株式のように市場価格が存在しないため、目的に応じた算定ルールに当てはめて計算する必要があります。この算定を誤ると、相続税や贈与税の申告漏れ、あるいはM&Aでの売却価格の見誤りにつながるため、承継を検討し始めた段階で仕組みを理解しておくことが重要です。
相続税評価額の算定方式は主に3種類
親族内承継や相続・贈与の場面で使われる株価は、国税庁が定める財産評価基本通達に沿って計算します。代表的な方式は次の3つです。
類似業種比準方式
上場している同業他社の株価や配当・利益・純資産の水準と比較して株価を算定する方式です。会社の規模が大きいほどこの方式の比重が高くなる傾向があり、業績が好調な会社ほど評価額が上がりやすい特徴があります。
純資産価額方式
会社が保有する総資産から負債を差し引いた純資産を基準に株価を算定する方式です。土地や有価証券の含み益が大きい会社では、帳簿上の数字より評価額が跳ね上がるケースがあります。
配当還元方式
少数株主など経営に関与しない株主の持株を評価する際に使う簡易的な方式で、他の2方式に比べて評価額が低くなる場合が多くなっています。
会社の規模(従業員数・総資産・取引金額など)によって、類似業種比準方式と純資産価額方式のどちらを主に使うか、あるいは両者を併用するかが決まります。この判定を誤ると評価額が大きくズレるため、税理士など専門家の確認を受けることが望ましいとされています。

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無料で記事を作る →M&Aにおける株価(企業価値)の算定方式
第三者への会社売却を検討する場合、相続税評価額ではなく、買い手が「いくらなら買う価値があるか」という視点の企業価値評価を用います。代表的な手法は次のとおりです。
- 純資産法(コストアプローチ):貸借対照表の純資産を基準にする方法。計算がシンプルな反面、将来の収益力が反映されにくい
- 類似会社比較法(マーケットアプローチ):同業の上場企業の株価指標と比較する方法
- DCF法(インカムアプローチ):将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて算定する方法。成長企業の評価に向く一方、将来予測の置き方で結果が大きく変わる
中小企業のM&Aでは、純資産に数年分の営業利益を加算する「年買法」と呼ばれる簡易な考え方が実務上よく使われています。計算の目安としては、純資産に営業利益の3〜5年分程度を上乗せする例が見られますが、業種や収益の安定性によって加算年数は大きく変動し、1年分にとどまる場合もあれば10年分近くになる場合もあります。
株価算定でよくある失敗例
事業承継における株価算定では、次のようなつまずきが起こりやすいとされています。
- 相続税評価額が高額になりすぎ、後継者が納税資金を用意できず自社株の一部を売却せざるを得なくなるケース
- 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用割合を誤り、後から税務署の指摘を受けて修正申告が必要になるケース
- M&Aの売却交渉で、経営者側が簿価ベースの純資産額をそのまま希望価格として提示し、買い手の評価額との差が大きく折り合いがつかないケース
- 株価対策として生前に行った贈与や配当調整が、時期や方法を誤ったために意図した節税効果を得られなかったケース
いずれも、算定方式の選択や前提条件の設定を誤ったことが原因になっている点が共通しています。
よくある誤解:株価は1つの数字に決まるものではない
「自社の株価はいくらですか」という質問に対して単一の正解があると誤解されがちですが、実際には評価の目的(相続・贈与・売却・自社株買いなど)によって採用する方式が変わり、同じ会社でも算出される金額が数倍異なることが珍しくありません。相続税評価額が高くても、M&Aでの売却価格はそれより低くなる場合もあれば、逆に収益力の高さが評価されて相続税評価額を大きく上回る場合もあります。この違いを理解せずに「株価=1つの数字」と考えてしまうと、納税資金の準備や売却交渉の場面で想定とのズレが生じやすくなります。
株価対策・納税資金対策の基本的な考え方
相続税評価額が高くなりすぎる場合、次のような対策が一般的に検討されます。
- 役員退職金の支給などで純資産額・利益額を一時的に抑える
- 持株会社の設立による株式保有形態の見直し
- 事業承継税制の活用による納税猶予の検討
- 生命保険の活用による納税資金の準備
これらの対策は会社の財務状況や株主構成によって適否が大きく異なり、実行のタイミングを誤ると税務上のリスクが生じる可能性があります。事業承継税制の要件や納税猶予の仕組みについては、別記事「事業承継税制とは?納税猶予の仕組みと適用要件」でも解説しているため、あわせて確認することをおすすめします。
株価算定は誰に相談すればよいか
相続税評価額の算定は税理士、M&Aにおける企業価値評価はM&A仲介会社やフィナンシャルアドバイザー(FA)が専門領域となります。どちらも専門性が高く、自社だけで正確な数値を算出するのは難しいため、早い段階で専門家に相談し、現状の株価水準を把握しておくことが承継計画全体をスムーズに進める土台になります。相談先の選び方については、M&A仲介会社・専門家の選び方に関する記事もあわせて参考にしてください。中小企業庁や日本政策金融公庫など公的機関の相談窓口を併用するのも一つの方法です。
まとめ
事業承継の株価は、相続・贈与向けの相続税評価額と、M&A向けの企業価値評価とで算定方式も結果も異なります。類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式、そして年買法やDCF法といった複数の手法の特徴を理解したうえで、自社の状況に合わせて専門家に算定を依頼することが、納税資金不足や売却交渉の行き違いといった失敗を防ぐ第一歩になります。
よくある質問
- Q. 事業承継の株価はどうやって決まりますか?
- A. 相続・贈与では国税庁の財産評価基本通達に基づく類似業種比準方式や純資産価額方式、M&Aでは年買法やDCF法など目的に応じた方式で算定します。同じ会社でも目的によって金額が異なります。
- Q. 自社株の評価額が高すぎる場合どうすればよいですか?
- A. 役員退職金の支給や持株会社化、事業承継税制の活用などで評価額や納税負担を調整する方法が一般的に検討されますが、実行のタイミングや方法を誤ると税務リスクが生じるため税理士への相談が推奨されます。
- Q. M&Aでの株価は何倍程度になりますか?
- A. 中小企業のM&Aでは純資産に営業利益の数年分を加算する年買法が使われることが多く、加算年数は業種や収益の安定性によって1年分から10年分近くまで幅があります。



